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超Hi-Fiを求めたSPシステム

オールホーンシステムの開発意図


「電波科学」 84年3月号より

オーディオの限界を探る
全高調波ひずみについて
過波特性について
マルチパス・ゴーストひずみ
ウーファもホーンで
リバーブひずみ
ホーン臭さはホーンの振動
インパルス応答と音楽再生
最後に


オーディオの限界を探る
 数年前、最高の音を求めて、メーカー.マニア、スタジオ、評論家宅へ北海道から九州まで回りました。最高のシステムをこうして聴くと、現在の限界がどれ位か、また、5年10年後の限界もほぼ見当つきますが、それはオーディオを続ける気がなくなるほど不満なものでした。
 また、f特フラット、超低ひずみをいう製品や試作品も聴きましたが、音楽を再生しているとは思えず、現在のオーディオ理論、技術への難問を深めた次第です。
 色付けにより、特定の音楽を特定の人に心良く響かせるスピーカはありますが、本当の音楽は色付けによらない忠実度再生でのみ再生できると思えました。
 このときの探索の中で現オーディオの限界を越えるための手がかりとなるもの、音楽のための超高忠実度再生技術開発のスタートとなるものを多く得ることができたのは幸いでした。手がかりの一つは、ヘッドフォンの音とホーンスピーカの音でした。ヘッドフォンは音圧周波数特性(以後f特)も全高調波ひずみ特性(以後ひずみ)もそれほど良くないのに、また、部屋の残響の助けも無いのに、なかなか良い音楽を聴かせてくれます。このような音がスピーカから出てくればすばらしいと思えました。

第1図
第1図 電磁変換器の3種の制御方式

全高調波ひずみについて
 磁石とボイスコイルで振動板を動かすことでは同じ電磁変換方式ではありますが、制御方式の性質を調べますと、ヘッドフォンやホーンスピーカは、原理的に音楽を害する高次のひずみが少ないことに気づきました。第1図の変位と音圧の特性に注意ください。いずれの方式も再生帯域で音圧特性はフラットになりますが、変位は異なります。例えば、同じ大きさの100Hzの音と10kHzの音では、ヘッドフォンの場合、振動板の振幅は同じであるのに対して、直接放射型(コーン型、ドーム型、平板型等)では10kHzの振幅は100Hzの信号の振幅の1万分の1になっています。ホーン型は100分の1です。
 複合信号や過波的な信号では、方式により変位の波形は大きく異なることになります。
 変位でひずみを生じた場合はどうでしょう。0.05%の5次ひずみが生じたとして、直接放射型では音圧になるとき、12dB/octの割合で高域が増強されることになりますから、音圧のひずみは1.25%にもなることになります。この関係を第2図に例示します。トータルのひずみは変わらなくとも、ヘッドフォンやホーンスピーカが良い音楽を再生できる理由の一つがこれだと思います。

第2図
第2図 変位ひずみが同じとして各制御方式に生ずる音圧ひずみの違い(理論値)

過波特性について
 これらの3つの方式は磁石の働きについても異なった様子を示します。第3図を見てください。磁石を強くすることが文句なしに性能向上に結びつく唯一の方式がホーン型です。電磁変換器では駆動力は磁力に比例し、制動力は磁力の2乗に比例します。
 全域をバネ(弾性制御のヘッドフォン)や錘(慣性制御の直接放射型)で制御するのとは違って、電磁力で駆動し制御するホーンシステムは最も合理的にみえます。しかも駆動力と制御力をいくら強くしてもよいということは、瞬時瞬時に激しく変化する音楽の再生のためには喜ばしい特性であると思えます。

第3図
第3図 磁力を変えたときの周波数特性

マルチパス・ゴーストひずみ
 ホーンスピーカをよく聴くとホーン開口端反射による低域特性のあばれや、ホーン臭さ以外に、高域に特有のくせが聴きとれました。システムにインパルスを入力して聴いてみますと、ピチッ、ブチッ等、どれもがパルスがダブったような聴こえ方をします。
 ホーン内でマイクロフォンを移動させ、多ポイントで取り込んだインパルスデータをコンピュータで処理しますと、第4図が得られます。インパルス波が支柱やセパレータに当たって反対方向に戻っているのに気づきます。
 ホーン内に障害物を入れたり出したりしてみると高域のくせが変ることから反射の音質への影響が確認できます。高域がやかましくなり、サ行音が強調されます。弦がにごり、楽音の微妙な差はわからなくなります。聴き方によっては華やかに、また、メリハリを持っても聴こえますので、これを好む人もあります。ある人にとって好ましくともこれは音楽再生を害することからひずみと考えるべきでしょう。テレビにおけるゴーストに似ているので、マルチパス・ゴーストひずみと呼びたいと思っています。
 マルチパス・ゴーストひずみは正弦波を使ったのでは聴いても測ってもわかりません(第5図)。従来の物理特性には現れないので気づかなかったが、これは音楽を害するひずみです。
 マルチパス・ゴーストひずみは音響レンズや、ラジアルホーンの壁面が急に広がる角でも生じます。また、反射ではありませんがマルチユニットでユニットからの音の到達時間がずれる場合も同様のひずみが生じます。
 高域の反射を生じないようなホーンを開発したところ第6図Bのような優れたインパルス応答を示しました。従来のホーンで聴いたことのないピュアな静かな音がしまず。このホーンの途中の壁に障害物として小さなケシゴムを置きますと、マルチパス・ゴーストひずみが生じて、Cのようにインパルス応答が悪化してホーン的な音となります。

第4図

第4図 ホーン内を進行するインパルス波
とその反射(画面の下から見上げて見ると
よくわかる)
第5図
第5図 マルチパス・ゴーストひずみ
第6図
第7図第6図 ホーンスピーカーのインパルス応答
第7図 正弦波の集合かインパルスの集合か?

インパルス応答と音楽再生
 従来のオーディオの基盤となる物理量は周波数領域のものでした。すなわち、すべての信号は正弦波の集合であるから、聴こえるすべての正弦波を正しいレベルでひずみなく再生すればよいとの考えです(第7図)。たしかに連続する繰り返し信号であれば複雑なものを再生できると思えます。しかし有限な帯域で過波的な信号を扱う場合には疑問があります。
 時間領域的な考え方を同図Bに示します。信号を十分小さい幅のインパルスの集合と考えるのです。有限の幅のインパルスの集合とするとコンパクトディスク等でおなしみのPCM変換となります。これならば繰り返し波形でも音楽信号のような過波的な信号でも、扱えることが理解できます。
 インパルス応答にマルチパス・ゴーストひずみのようなひずみがあれば正弦波は再生できても、音楽の忠実再生はできなくなります(第8図)。マルチパス・ゴーストひずみのあるほうはシロフォンの音が華やかに聴こえても、それは本物の音楽でないのは理解いただけると思います。

第8図-A シロフォンアタック部源信号
第8図-A シロフォンアタック部源信号
第8図-B第8図-C
第8図-B インパルス応答と楽音再生

リバーブひずみ
 インパルス応答には周波数、位相情報以外に、時間的な情報まで含んでいますので、種々の解析をすることができます。比較的一般になじみのある累積スペクトラム法で市販の4ウェイ直接放射型スピーカシステムを解析してみました(第9図)。
 理想的なシステムでは一番向うの時間0の所にレベル0dBの平坦特性があって、その手前はすぐに成分が無くなるはずです。測定系のS/Nが十分でないので断言は危険ですが、このシステムの場合、最初20dB程は早く落ちていますが、後は仲々落ちないようです。残響的に残っている成分は次の音と重なるので、音楽的には望ましくないことになります。音楽を損なうものをひずみと呼ぶことにすれば、これは残響ひずみ(リバーブひずみ)とでも呼ぶのが適当かと思います。このようなひずみは連続正弦波では検出できませんし、聴いてもわかりません。インパルス信号や音楽ならわかります。

第9図
第9図 物理特性の良い近代スピーカ4way直接放射型
第10図
第10図 累積スペクトル的に表示した1kHzの高調波ひずみ
 第10図に高調波ひずみを同じ様な表示方法で書いてみました。高調波ひずみに比して残響ひずみの重要さが理解いただけたかと思います。スピーカボックスの振動で放射される音圧は、ユニット振動板から放射される音の-15dB〜25dBであるという研究発表がありましたが、第9図の仲々減衰しない成分を箱の振動とみればうなづけます。百分率に直して5〜20%のリバーブひずみということになりますが、信号が消えた部分に存在するので、聴感的にはもっと大きな影響を与えていると思われます。
 過渡的な特性を考慮してホーンスピーカを試作しますと、第11図のものができました。第9図のものと全高調波ひずみはそれほど変わりませんが(高次のひずみは異なるはず)残響ひずみとしては20〜30dB良くなったようです。聴き比べると話にならないほどすっきりとして今まで聴けなかった微妙な音色や、音の差が聴こえます。もろもろのひずみが無くなって埋もれていた音楽が浮び出たのです。ホーン臭い音やホーン的な音はせず、強いて言うなら良質のコンデンサヘッドフォンに似た音です。

第11図
第11図 残響ひずみの少ない試作ホーンスピーカ

ホーン臭さはホーンの振動
 試作ホーンのドライバユニットをダミーロードに装着して特性を見ると、第12図Aのようなすばらしい特性です。インパルスに代えて音楽信号を入力し、測定マイクの出力をヘッドフォンで聴くと、このユニットには何の色も着いていないことがよくわかります。
 Bは市販品の中で良いデータを示したものですが、振動板がアルミなので減衰に少し時間を要しています。

第12図-A
第12図-A ドライバーユニットのみの特性(音響ダミーロードで測定)
第12図-B
第12図-B ドライバーユニットのみの特性(音響ダミーロードで測定)
 第13図はホーンの壁の振動です。ドライバユニットをこのホーンにつけると第14図の特性になります。ホーンスピーカの音はユニットの音とホーンの音が、総合されたものであることはもちろんですが、こうしてみると時間的に初期の部分はユニットが、後になるとホーンが支配していることがわかります。
第13図
第13図 ホーンの振動特性(ホーン璧の振動を振動ピックアップで測定)
第14図
第14図 第12図-Aのドライバと第13図のホーンの組み合わせ
 試作機のホーンはFRPを制動材と拘束材で防振したものです。全くホーン臭くないのは先程述べたとおりです。従来の金属や木のホーンですと、ホーンのリバーブひずみがもっと多いので、ホーンの振動音を聴いているようなことになります。ホーンのカーブを変えずに材料だけを替えてホーンを試作してみますと、f特は変わらないのに全く違った音がしますが、このようにみればよく納得できます。リバーブひずみのパターンとレベルが材料によって異なりそれぞれのホーン臭い音を聴かせているのです。

ウーファもホーンで
 試作した高音用ホーンスピーカをウーファと組み合わせて聴こうとしますと、従来のウーファでは質の高さが段違いで、全く使いものになりません。過渡的な特性を良くするためには数多くの工夫をしなければならないのですが、これは今回は書き切れませんので別の機会にさせていただくとして、結果としてホーン型になってしまったことを申しあげておきます。
 ウーファをホーン型にしても残響ひずみを無くすためにはホーンや箱の防振を徹底的にする必要があるのはトゥイータと同様です。
 このホーン型ウーファも従来のシステムにない多くの特長を持っていますが第15図にデータで一例を示しておきます。時間の遅延ひずみがなくなることにより従来再生音に必ずあった低音の不自然さと、遅れ感が無くなりました。
 低音の遅れが無くなると今まで再生音で聴いたことがなかった上等な音楽が聴けるようになります。上等な演奏や楽器の音は立上りに低音成分を伴っているのですが、この低音が遅れて高音が先に聴こえると安物になってしまいます。
 例えば一流の音楽家の発声は和洋を問わず横隔膜を使うのでウッというような低音を伴って立上ります。紫人はのどと肺でしぼり出すので、高音の先行する貧弱な発声となります。弦楽器でも弓が弦に吸いついて十分力の加わった所でパッと頭に低音がしっかり吸いついています。奏者が下手な場合や楽器が安物の場合はこのような音は望めません。

第15図
第15図 試作ホーン型ウーファの郡遅延特性と聴感
第16図
第16図 ステレオ再生におけるひずみ(主としてスピーカシステム)

最後に
 どの様なスピーカを開発したかったか、そしてその根拠について意多くして筆足らずとなってしまいました。第16図に音楽を害するひずみについてまとめてみました。周波数ひずみと振幅ひずみは従来のオーディオ技術がよりどころとしてきたものです。今回のシステムの開発は時間ひずみと空間ひずみを主たるよりどころとし、その目的は言うまでもなく音楽再生であります。
 音楽再生という言葉は従来よりあいまいな形で使われていますが、この開発では具体的な項目で試聴チェックをしています。その要素を挙げておきました。これらの音楽要素はそれぞれの物理量と合理的に結びつくことがわかりましたが最終的には、音楽の心、音楽性の再生へとつながる要素です。
 このシステムと技術はまだ開発の途中ですが、思いどおりの成果が出ているようなので、音と考え方の一部でも聴いていただいて皆様のオーディオライフに役立てていただければと発表した次第です。近く製品として聴いていただけると思いますので御期待下さい。

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