TIMEDOMAIN
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 JAS Journal2003.7

タイムドメインをひろげる

(株)タイムドメイン 由井 啓之


1.はじめに

 タイムドメイン社から主力製品「Yoshii9」(写真1)、「TIMEDOMAIN mini」(写真2)を発売してそれぞれ3年、2年弱となります。口コミだけでの販売ですが、おかげさまで昨年度になってやっと黒字を計上することが出来ました。買って下さっている方の多くはオーディオにそれほど関心なかった方や、音楽関係の方が多いようです。また女性が多いのも今までのオーディオではあまり経験のない現象です。このような人たちは諸事情で今までのオーディオに魅力を感じなかったか、なじめなかった人たちであり、自分の音楽がオーディオ装置で壊されるのに耐えられなかった音楽家たちでもあります。
 われわれ自身も意識してオーディオマスコミや従来のオーディオ市場を避けていた傾向もあります。従来のオーディオとなじまない部分も多くあるし、従来の常識で扱われると多くの誤解を生じるおそれもあります。根気よくコミットしていけばよいのでしょうが、数人でやっている企業にそれだけの余裕がありません。従来の世界とはかかわらず、新しい地に新しい世界を拓く方が楽だという考えでやってきました。幸い理解者も増え世界の企業にライセンスするようにもなり、大学などで講義も聞いていただくようにもなり世界各国に輸出するに至りました。従来オーディオを否定するのではありませんが、早く我々の提案が世に広まればと願っております。

写真1 Yoshii9 ジョンレノンミュージアム写真2 TIMEDOMAIN mini 京の名刹
写真1 Yoshii9 ジョンレノンミュージアム 写真2 TIMEDOMAIN mini 京の名刹


2.タイムドメイン理論

 従来、音響工学やそれに基づいたオーディオ技術(アンプ技術、スピーカー技術、その他)は、1)周波数特性、2)ひずみ、3)S/N(ラウドネス)を基本の考えとしたものが専らでしたから、特に区別の必要がなかったのですが、我々は研究の必要上20数年前から、従来の理論技術をFrequency Domain,新しい考えをTime Domainと区別させていただいております。
 上記3点に関して述べてみますと

1) 「周波数特性」に対しては「音の形」
 周波数特性をいくら整えても元の音にはなりません。強いて言えば音圧波形が音に直接関係するといえます。周波数特性的観測をするなら、振幅特性を平坦にするのではなく、群遅延特性を平坦にすべきでしょう。帯域別にわけたユニットをフィルターで合成しても、空間で合成して元の音の形にはできません。

2) 「ひずみ」に対しては「崩壊と消失」
 ひずみとは一般に正弦波に対する高調波ひずみを意味しておりますが、これを音の忠実度の大きな要素とは考えません。何10年も前、ひずみが1桁2桁%もある頃は、音質とある程度の相関はありましたが、昨今のアンプ・スピーカーではあまり意味がないと思われます。いろいろな歪み値のアンプやスピーカーを聴き比べれば直ぐ納得できることです。特に出力アンプに関して抵抗負荷正弦波測定で0.000…%と言うのはナンセンスと思います。先に出た音が壁に反射してスピーカー端子に逆起電力となって現れる。箱の振動が、ボイスコイルからエッジへ進んだ縦波がボイスコイルへ帰ってきて逆起電力となる。先に出た音の反射とこれから出力すべき音を引き算して補正出来るという考えは、大きな見当違いでしょう。実音・現場について考えればこのような考えには至らない筈です。直線ひずみ(周波数特性)、非直線ひずみ(高調波歪み)ともフィードバック技術やDSPで補正できますが、これも音の良さの重要な要素では無いと考えます。
 タイムドメインでは音の形を維持すべきと考えます。プレーヤー・アンプ・スピーカーの至るところで音の形は崩れます。あたかも砂の城が崩れていくように。始めに細かい形が崩れ、最後には形らしいものさえ無くなります。崩壊と消失です。成分としての砂が無くなるわけではありませんが、形を失ってしまうのです。これは元に戻すことは出来ない現象(エントロピーの増大)です。
 形の崩れるメカニズムを知り、エントロピーが増大せぬよう、音元から耳に至るまで細心の対応が必要です。このような対応に関して従来オーディオの技術はよって至る拠点が異なりますのであまり役には立ちません。

3) 「ラウドネス」にたいしては「音の形の認識」
 従来、成分の音圧、またはそれのS/Nが聞こえに関する要素と考えられています。タイムドメインでは形の認識が聞こえであり、形のS/Nに相当するものが聞こえの要素と考えます。オーケストラのトゥッティの中で微かなフルートが聞こえます。形がチャンと認識できるからです。聞こえないシステムでは音量を上げてもイコライジングをしても聞こえません。微小な形も認識できるよう、形を維持することが必要条件です。
 3年前、試作品を持って欧米の著名スタディオを廻りました。世界のトップスタジオエンジニアたちが口を揃えて、「自分の作ったレコードにこんな音が入っているとは夢にも思わなかった」と言ってくれました。また、「オーガニックな音楽・楽器・ボーカルについては完全である」との評価を得ました。
 これはタイムドメインの大きな目標でありました。

写真3 Yoshii9 和室写真4 Yoshii9 & mini ベルリンショー
写真3 Yoshii9 和室 写真4 Yoshii9 & mini ベルリンショー


3.自然な音

 再生音楽を聴いて感動するための必要条件に「自然さ」があります。良い音の必要条件でもあります。人は不自然なものに対するチェック機能に優れております。これは自己防衛のために自然に備わった機能です。現代人は人工的なものに囲まれ、不自然なものに対するチェック機能は薄れておりますが、本能的に持っております。
 音に対してもチェック機能が働き、不自然な音に対しては意識領域と潜在意識領域の間にあるゲートが閉じてしまいますので、再生音楽は心の領域には達しません。オーディオオタクがいくらすごい音でしょう、とデモっても意識領域で理屈で聴いているだけで感動には至りません。自然であれば警戒は無くなり、ゲートはオープンになりますから、音楽は心の領域で受けられます。
 欧米の顧客はオーディオの善し悪しを、その装置が音楽の感動をどれだけ引き出せるか、で評価しているようです。音楽のジャンルが何であっても評価できます。対して日本のオーディオオタク(悪い意味で)は音の断片を聴いて良い悪いをうんぬんしているようです。結果として一般人には魅力も関心も無いオーディオ固有の音の世界となっているようです。



4.不自然な音

 オーディオは趣味としてみれば自然であろうが人工的であろうが、本人が求め満足していればよしとすべきでしょう。タイムドメインは自然さを求めます。人工的オーディオは元気な時には聴けますが、疲れた時、特に精神的に疲れている時は聴く気になれません。これは潜在意識領域では排除しているからです。本当は糧となる食品が、農薬や添加物などの不自然なもので知らずしらずに身体をスポイルしているように、心の糧となるはずの音楽も不自然な再生で精神をスポイルしている怖れは無いのでしょうか。胎児や幼児には特にその怖れがあります。ご存知のように人の脳は外部刺激によって創られます。悪い音、不自然な音で創られた脳(心)を憂慮します。脳のでき上がった大人が自分の責任で味わう分には何でも構わないと言えますが。

写真5 Yoshii9 6連装 プラネタリウム
写真5 Yoshii9 6連装 プラネタリウム


5.微少な音

 エントロピーの増大をミニマムに抑えるべく留意して創られたシステムでは従来聞こえなかった(入っているとは思っていなかった)音が聞こえます。たとえばバックグランドの物音などでは、聞こえるか聞こえないかの客観的な評価ができます。正弦波のテスト信号では可聴帯域全域にわたって、CDの最小信号レベルまで再生できるシステムなのに、実信号では聞こえない音が沢山ある、という現象があります。崩壊と消失を考えれば当然の事象です。はっきり聞える筈の物音が聞こえないということは、楽音の微妙な表情を再生できていないということです。これでは感動に至りません。音楽家が高価な楽器を入手し、毎日の過酷な訓練で表現しようとしているものをチャンと再生するのがエンジニアの努めだと考えます。オーディオオタクや売れればよい商品としてのオーディオの考えではありません。
 おおかたのオーディオシステムにおいて、大体の音は再生出来ています。普通で6、7割、超高級で8、9割(独断の尺度です)。残りの2割1割、1%がおいしい部分、感動に必要な大切な部分と確信しております。自然さや微少成分再生の結果としての感動は、原音と比較するまでも無く、音楽のジャンルにも関係なく、音楽やオーディオに関する教養が無くとも誰にでも分かります。



6.オーディオの使命

 いくら良いオーディオでも生演奏には及ばないでしょう、と言う声を聞きます。私はそうは思いません。昔、年に100回も演奏会に通ったことがありました。でも良かったな、と思ったのはせいぜい数回でした。ホールの問題も含めて会心の演奏にはなかなか当たりません。ジャズクラブへ行っても2流のプレーヤーが変なスピーカーを使っての演奏で、なかなか感動には至りません。超一流のプレーヤーもきらきら輝いている期間はほんの僅かです。大抵輝きを失っているか故人になっています。レコードには素晴らしい演奏が残っています。それをチャンと再生すれば何時でも素晴らしい感動を得ることができます。また世界中に素晴らしい音楽があります。その感動を皆に伝えるのがオーディオ技術者の、研究者の使命ではないでしょうか。論文のための研究、売れる商品のためのエンジニアリング、という風潮を憂慮します。
 1枚のレコードに、何億円もする名画以上の感動が入っています。世界中の人に毎日感動の生活を送っていただきたい。それがタイムドメインの願いであります。



  • 自然な音。 いくら聴いても疲れない。
  • 音像がリアル。 実在している様に聞こえる。 遠近、広がり、上下まで。
  • 音場感が豊か。 雰囲気まで伝わる。
  • 音離れが良い。 スピーカーが鳴っているように思えない。 空間から音が出る。
  • 距離が離れても音は崩れない。 離れても音量は余り変わらず遠くまで届く。
  • 音量を下げても音は崩れずはっきり聞こえる。 騒音の中でも聞き取れる。
  • 音の分離が良い。 オーケストラのいろいろな楽器が聞き取れる。
  • 物音や環境音がはっとするほどリアル。 自然楽器の音がリアルで表情豊か。
  • 会話がはっきり聞き取れる。 英語の発音がはっきり聞き取れる。
  • 口の形や開き方、舌や歯の動きや位置が分かる。
  • 女性ボーカルが胴間声にならず、サ行強調がない。
  • 低音楽器の半音の動きが聞き取れる。 低音楽器の奏法、音色の変化が良く分かる。
  • 演奏会場の物音、観客の話声、微少な音が聞える。
  • 古い録音や、LP、コンパクトカセット、TVの音もリアルに忠実度高く驚く。
  • 声や楽音の頭に低音がしっかり付いて上質の音が自然に響く。
第1表 タイムドメインシステムの音の特徴(試聴者の印象)理論的裏付けがある


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