2001ベンチャー企業事例・起業支援者事例集
起業家と起業支援者が語る熱いメッセージ
CASE1 大企業では生かされなかった技術力が開花
独自の「タイムドメイン理論」にこだわって、
既成概念を越えたオーディオシステムを開発
株式会社 タイムドメイン |
■会社概要 |
事 業 | : | 音響機器メーカー |
所 在 地 | : | 奈良県生駒市 |
設立年月 | : | 1997年9月 |
年 商 | : | 4億円 |
従業員数 | : | 8人 |
会社URL | : | http://www.timedomain.co.jp/ |
<社長プロフィール> |
社 長 | : | 由井啓之氏 |
年 齢 | : | 65歳 |
学・職歴 | : | 電気通信大学卒業
→御寄与ーで心のオーディオを目指して研究を重ね、時
間をキーにした独自の「タイムドメイン理論」を発表。
→1996年に退社して独立。タイムドメイン理論による
新しいオーディオシステムを開発。 |
1 事業と特徴
音は時間とともに最初の性質や成分、あるいはその形が変化したり、欠落したりするが、これらを起こさせないように、音源からの音を100%引き出し、ありのままに再現するシステムがタイムドメイン理論。
従来の音に対する概念を変えた新しいタイムドメイン理論によるオーディオシステム「Yoshii9」を2000年7月に30万円で発売。パイプ型のスピーカー(直径9cm、高さ108.5cm)と手のひらに乗る卵形のアンプ。これまでのオーディオからは想像もつかないスタイル。「何百万円もするオーディオシステムより音がよいので、価格は画期的に安い」(由井氏)とあって大反響。今年4月のパリのオーディオショー、8月のベルリンメッセでも世界の音楽関係者の関心を集め、好評を博した。
今年5月には「Yoshii9」のミニ版、アンプ内蔵の卵形スピーカー「TIMEDOMAIN mini」(18,000円)を売り出した。音楽のほか、テレビやパソコンに接続すれば、ドラマや映画も音場感豊かに雰囲気まで伝わり、音像がリアルで実在しているように聞こえる。
いずれも直販。某百貨店と外商販売契約を交わす契約だが、基本的には「朝市精神」。自分で作ったにんじんや白菜を消費者に直接売って喜んでもらうのが楽しみ。
特別なPRはしないのに、実演を聞いて「これが本物の音?」と、音楽に興味のない人にも歓迎され、口コミで販路が拡大している。
2 創業の動機・経緯
■「世界最高のものを」という支援者との出会い
オンキヨーでオーディオの研究に取り組み、新しいスピーカーシステム「GS-1」(グランセプター)を開発、それが日本の84年オーディオ三大賞を独占、91年にはフランス・ジョセフ・レオン賞に日本人として初めて選ばれ、世界の注目を集めた。
ところが「GS-1」の能力を発揮する専用のアンプを開発中、会社の方針で中止になった。
96年のある日、具体的に製品化のメドが立たないものに投資できないと役員会が決定。たまたまアスキーの当時の社長が「私にも聞かせてほしい」とオンキヨーに由井氏を訪ねた。「研究は今日で最後になります」。事情を話すと、「面倒を見るから研究を続け、世界最高のものをつくって」と支援を約束。初志を貫くため、由井さんは退職して独立、翌年の97年に会社を起こした。
3 創業時の課題と対応
■研究を続けるための資金繰りに苦労
最大の課題は、研究費をどうやって維持するかだった。会社は何度かピンチに立たされた。
独自のタイムドメイン理論によるスピーカーを開発し、GS-1では成し得なかった「誰もが楽しめる」価格の試作品を作り出したが、試作品を1つの制作費は百数十万円。製品として納得するものを完成させるには、それを何十個と作らなければならない。そのための金型制作費は何千万円も必要。そんな費用を銀行が簡単に融資するわけがない。おまけに、製品は未完成、担保もない。
そこで、試作の音を聞いてもらったところ、「凄いですね」と銀行のトップも感動、融資の「OK」が出て、研究を続けることが出来たという。
「技術面よりも資金面で苦労しています。今も借金返済に大変」と由井氏。しかし、売り上げは順調に伸び、展望は明るい。
4 現在に至る成功要因
■「1つのことをしぶとくやったことがすべて」
「1つのことをしぶとく、意地になってやってきた。これがすべて…。あらゆることを、とことんやり尽くすこと。失敗しても、くじけずに。そうしたら、失敗がベースになって、新たな発想がひらめくものなんです」
よい音を多くの人に聞いてもらいたい。素朴で、強い思いを貫き通す一徹さが、世界の評価を得るオーディオシステムを生み出した最大の要因。
5 今後、起業家を志す人へのアドバイス
■「儲けてやろうという発想では駄目」
「儲けてやろうという気持ちでは成功しない。執念というか、1つのことを信念を持って当たることです。発明や独創的なものは、人間の潜在意識の領域まで揺り動かさないと作り出せないと思う」
「朝8時に出社して、机の上でアイデアを出せ、といってもよいアイデアは生まれない。せいぜい、改善・改良案ぐらいかな」
■「オンリーワンを目指すこと」
「これからの企業はオンリーワンでないと勝ち残れない。世界に1つ、日本で1つ、そして本物でないと通用しないでしょう。相対的に優れているのでなく、絶対評価を受けるようなもの、損得なしに人々の共感を得られるようなものを創造することを目指すことだと思う」
同社の創業時に見る「学ぶべきポイント」
!本物の強み
「オーディオに興味のない人でも一度聞いてもらえれば70%の方が気に入ってくれます」。由井氏がそう断言するほど、「Yoshii9」と「TIMEDOMAIN mini」には、人の心を惹きつけるものがある。
研究費の銀行融資を"音の担保"で受けたというエピソードは、そのことを裏付ける。本物には、言葉ではかなわない説得力があることを痛感する。
!一徹さ、真剣な姿
由井氏は20数年前、血清肝炎で1年半の入院生活を送った。その時、不安な気持ちに安らぎを与えてくれたのが音楽だった。「自分も心を和ませる音を作り出そう」。その時の思いをずっと持ち続ける一途さには、夢を追う男のロマンを感じる。
音楽には素人だった由井氏だが、音響工学に関する書物を読みあさった。試作を繰り返すうちに「従来のオーディオ理論は間違っている」と疑問が湧き、疑問解消への取り組みが既成の概念をうち破るタイムドメイン理論の発明となった。そして、その理論を具現化するための研究開発には、何年もの間、睡眠時間を削ってまで没頭した。
ひたむきさが、企業へのきっかけとなる支援者とのドラマティックな出会いも呼び込んだといえる。
まさに、ベンチャーである。
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